鈴木良雄 & maiko  Live at  Cafe Tone

5月28日に浦和の「Cafe Tone」で鈴木良雄さんとバイオリニストのmaikoさんのライブがあるというので出かけることにした。ライブに行く前に「YOSHIO SUZUKI EAST BOUNCE+ONE」の(LIVE @ BODY&SOUL)というDVDを是非とも観るように息子に勧められていたが、とうとうライブ当日になってしまい、やむなく早朝5時起きして観た。鈴木さんがまだ若いころに10年以上活動してたバンドにタップダンサー宇川彩子が共演していた。

 第1部では鈴木さんのベースソロと宇川さんのロシア民謡「Dark Eyes」が印象に残った。ベースが奏でるメロディーラインに黒い瞳の娘がタップで応え、お二人が会話を楽しんでいるように見えてきた。

 第2部では、鈴木さんが親友のために作曲したという「My Dear Friends」は心に響いた。「おい、お前近ごろ無理してないか。あまり深酒するなよ。元気でいて、また呑もうや。」などと語りかけてくるように聞こえた。そのとき42歳の盛りに過疎地の医療に奔走し過労で亡くなった親友のことが思い出された。私がこのDVDを一気に見終えたときには7時を回っていて、急いで朝食の支度にとりかかった・・・

 少し早めに浦和に着いた。浦和駅構内と駅前は再開発により昔の面影は残っていない。息子がスマホを取り出してグーグルマップを頼りに「Cafe Tone」にたどり着いた。既にリハーサルが始まっていて、二人で漏れてくる音を聴きながら開店を待った。リハーサルを終えて出てきた鈴木さんに握手を求められたことに息子は感激し、持参してきたDVDとCDにサインをしてもらっていた。ジャズピアニスト秋吉敏子とドラマー日野元彦とのライブ音源は、鈴木さんが保有していたカセットテープだそうで、そのCDの解説を懐かしそうに読んでいた。ただ、「このCDはベースの音は良くない」と呟いたのを聞いて、息子が「ベースの音が少し硬かったですね」と応えると録音されたときの様子を話してくれた。これはジャズのメッカといわれて久しいブルーノート東京でのライブ録音で、アンプを通してない直の音源なのでベースの音が硬いが、秋吉敏子御大がOKしたのでCDにしたのだと付け加えた。

 私は気なっていた「My Dear Friends」の呑み友だちはお元気ですかと尋ねと、やはり亡くなっていた。現在大活躍中で少しやんちゃなステージ・トークがこ気味良いトランペッターの日野皓正の弟でドラマーの日野元彦も亡くなったし、長いこと一緒にやっていたドラマーのセシル・モンロー も逝ってしまったと顔を曇らせた。それでも今は一緒にプレーしている仲間たちのために演奏していると語ってくれた。鈴木氏のHPを覗いたら「My Dear Friends ~チンさんと6人のピアニスト~」というCDがリリースされていた。

 開店時間になったときに、まだサインを書いていた鈴木さんに「早く入っていい席にすわりな」と促されて店にはいると殆どがカウンター席でテーブルは二つだけであった。一番前のテーブルに着いたが、直ぐ目の前にベースが立てかけてあった。今晩はバイオリンのmaikoさんとのデュオライブであるが、プレーヤーとの距離が近すぎので当惑した。

 maikoさんは、元々クラシックをやっていたが、ジャズバイオリニスト寺井尚子のライブを観てからジャスを始めて、昨年15周年を迎えたとのことでした。その彼女が「今日、鈴木さんは一番良いベースの名器を持ってきてますよ。」と廊下で話しているのを聞いた。

 いよいよ始まると、鈴木さんが「今日は孫とおじいさんとのデュオライブです。」とジョークで切り出した。それはバイオリンとベースの間にはチェロとコントラバスがあるからだと解説した。それからベースの弦がテーブルにぶつからないように慎重に位置を定めて演奏を開始した。まさに手の届くところにベースがあって、その生音に圧倒されてしまい、まじまじとプレーヤーを見ることができなかった。それにも増して、あの小さなバイオリンからでる音量にはびっくりした。以前、御茶ノ水のジャズフェスに行き明大ホールでビッグバンドと共演した寺井尚子のバイオリン演奏を聴いたことがあるが、楽しみにしていた寺井直子のジャズバイオリンが殆ど聞こえてこなくて、演奏者が可哀そうにさえ思えたことを思い出した。それが今、目の前で演奏され、生音で聴く弦楽器だけのジャズに対する新鮮な感動に浸っているのだ。

 この「Cafe Tone」は、元々ジャズ喫茶だったらしく壁の棚には使い込んだジャズやクラシックのレコードのジャケットが並んでした。それだけに狭いけれども音響には良い造りなんだろうと思った。店内は20席ほどのスペースで、ほとんどが常連のお客さんでしめられたアットホームな雰囲気の中にハンチングを被りカウンター席の隅に座ってグラスを傾けながら静かに聴いている初老の紳士が目を引いた。まるでジャズ漫画「BLUE GIANT」にでも登場してきそうなジャズ通の雰囲気を醸し出しているのだ。

 最初の演奏を終わって、鈴木さんが「お客さまが直ぐ目の前にいて、緊張感を感じています。」と言ったが、私と息子も最初は緊張してベースの弦を弾く指先しか見ることができなかったくらいであった。でも「黒いオルフェ」が演奏される頃にはすっかりリラックスして、映画のシーンを思い出しながら聴いていた。ライブが終わると「鈴木さん、誕生日おめでとう。」と言ってケーキが運ばれてきた。鈴木さんも今年で古稀をお迎えだそうで、私も持参したバーボンを1本手渡した・・・

 帰りは、あのハンチングの紳士の後に続いて駅に向かった。通い慣れた紳士は路地を通り抜けあっという間に駅に着いた。その直前に紳士に追いつき声をかけてみた・・・「私は音の出るものが好きで、あそこのライブには欠かさず聴きにいっているよ。」と話していた。